何故?何時から?

 ここ10年以上、動物性脂肪はなかなか肩身の狭い思いをしている。

 「動物性脂肪は健康に良くない影響を及ぼすでしょ?」

 「血がドロドロになりそう…」

 「健康的な生活には、植物性脂肪でしょ!」

 こんな声が聞こえてきそうだし、各種メディアやインターネット上の

情報でも、積極的に摂取を控える様に促されている感じがする。

 では、この近年における動物性脂肪の悪役ぶりはいつ頃から言われ始めた

のであろうか。

 こういった時系列を調べ上げること自体、そもそも批判的な業界

に身を置いていたわけでは無く、むしろその消費や流通を担う業界

だからだろうか、いつ頃かはっきりしない。

 あいまいな記憶を辿ってみれば、20年前には言われていた気もする。

30年前には無かったような・・・。その時に何をもってそう報じられていた

のかを知る事は、自分のあいまいな記憶を正す脳内の旅を行った気分になった。

1980年頃

 色々調べていくと、血中のコレステロール値に関してやマーガリンに

かつては多く含まれていた飽和脂肪酸の一種、トランス脂肪酸の摂取が

健康に害する働きをする、という趣旨の研究成果が1980年頃から出だしている。

 まず、コレステロールに関しては1985年にはコレステロール代謝の詳細

とその関与する疾患の研究により、アメリカの科学者がノーベル生理学・医学賞

を受賞している。彼等により LDLコレステロール受容体とその機能が発見される

など、脂肪と健康の関係性について世間が関心を高めていった時期と考えられる。

 次に、飽和脂肪酸についてだが日本国内ではこちらも1980年頃から健康に関する

話題が出始めており、アメリカでは2018年から食品への使用は全面的に禁止となった。

 日本では当面規制の流れは無いが、それはそもそもの摂取量が少ないからであり、

アメリカ人は1日の摂取カロリーの内、2.2%がトランス脂肪酸だったそうだが日本人

は0.3%だそうで、ここに関しては日頃の食生活や国の持つ食文化が関わっていると

思われる。

 そんな現在では、トランス脂肪酸含有食品の代表格的な存在として、マーガリンが

やり玉に挙げられるがその昔は健康に良いなんて言われていた時代もあったのだ。

 バターが牛乳から作られるのに対し、マーガリンはパーム油などの植物性油脂が

原料だということもあり、健康的な脂肪という地位を築いていた。が、飽和脂肪酸

の取り過ぎによる健康被害が広がっていたアメリカで、「どうもマーガリンに含まれる

トランス脂肪酸という飽和脂肪酸が悪さをしている。」という事が研究で明らかに

なっていき、やがて食品そのものに含有する事すら認めないという事態にまで事が

進んだ。”狂った脂”などと忌み嫌われ、目の敵にされてしまったトランス脂肪酸だが、

近年の動物実験では単離したトランス脂肪酸を用いた試験で、人間に対する懸念される

健康被害は出なかったそう。

 すると、ではマーガリンの含むその他の物質が悪影響を及ぼしているのでは、

という事になり、製造過程で副生するビタミンの仕業かも・・・?などという

報告が上がってきているなど、時代と共に脂肪酸を取り巻く環境や、評価は目まぐるしく

変化している。因みに、現在ではバターとマーガリンのどちらに多くトランス脂肪酸

が含まれているかというと、バターだ。以前のマーガリンは、製造工程から必ず7%

程度のトランス脂肪酸を含んでいたが、現在ではその製造工程を用いているマーガリン

を製造しているメーカーは無く、含有量は1%未満。バターに関しては大体2%程度

の含有率となっている。

 以前のマーガリンは、製造工程でニッケルを触媒にした、水素添加の工程を含んで

いた為であるが、ニッケルと水素の組み合わせだけを見ると、充電池を思い出して

しまったのは私だけだろうか。

脂肪の品質

 今回の記事名

バランスが大事

 についてだが、美味しさの追求に関しても、健康に関しても、摂取する脂肪の量を

気にするよりも、摂取する脂肪の品質そのものにも、同じぐらいかそれ以上に気を

使う必要がある。

 そもそも、LDLやHDLといったコレステロールなんかも、悪玉や善玉といった

一見して判り易そうな言葉に置き換えられてしまったが為に、本来の効果効能

がきちんと伝わらないまま独り歩きしている状態だ。

 悪玉と言われる根拠は、一定の指数を超えた場合に限り、

身体に良くない影響が出やすい

のであり、もし悪玉だからといって数値を必要以上に下げれば生命維持そのもの

に支障が出るぐらい、体の中では重要な働きをしている。特に近年問題視されて

いるのが、”免疫系に対する影響”で、細胞膜や免疫細胞と呼ばれるNK細胞などは

コレステロールで出来ている。故に、一定値以下になると免疫機能が低下して

色々と体に不都合が起こるという訳だ。

 巷には、コレステロール値を下げる薬やサプリメントなんてのが販売されて

いるが、あれは本当に危ない。良識や知識の更新を行っている医療関係者や

食品関係の人間であれば、絶対に健康に害すると体に取り入れる事を反対する

はずだ。

 そして善玉についても、善だからといくらでも数値を上げて良い訳では無い。

物事には何事にも限度があり、過ぎたるが及ばざるがごとし、だ。これは品質にも

言える事で、○○の成分が何倍!なんてその部分だけに目を向けても意味が無い。

近年、脂肪酸の持つ健康機能の解析が進み、健康に良い脂という情報や製品が

巷に溢れている。もちろん、良い成分であることには変わりなく、質の良いもの

を意識的に取り入れる事は非常に大切だ。しかし、質よりももっと大切な事がある。

それは、取り入れるバランスだ。量より質、質を重視しつつ摂取するバランスに

配慮するべきというのが、大学や研究機関と肉について様々な研究を行ってきた

私の答えだ。

 つまり、健康に良いという情報に踊らされ、単一の成分ばかりに目を向けるのでは

なく、質の良い脂肪をバランスよく取り入れる事が健康に最も効果があると思われる、

という事。

 そして美味しさに関する脂肪の品質に関しても、やはりバランスが大切という事

が判って来た。牛肉の脂肪中には様々な脂肪酸が含まれており、一般的に飽和脂肪酸

が多いと捉えられがちだが和牛に関していえば、ほとんどの場合不飽和脂肪酸の含有量が

50%を超えている。飽和脂肪酸は融点が50℃以上の場合が多く、口どけが悪く胸やけを

起こすと言われている反面

(※胸やけに関しては、ほとんどの人が勘違いをしているので別途記事にして書きます!!)

不飽和脂肪酸の融点は20℃以下で口の中では液体に転じる。よって和牛の脂肪融点の低さは

この脂肪酸組成の違いが大部分に起因する。

 不飽和脂肪酸は融点が低く、かつ健康によいと話題なモノ不飽和脂肪酸や共益リノール

酸やリノレン酸など、話題の成分が目白押しで、融点が低くて健康に良いならそういった

脂肪酸を多く含む牛肉を仕入れて販売すれば、美味しいし健康にも良いし良い事尽くめ

・・・

と都合よくはならないのが面白いところだ。

 肉職人はこれまでに培ってきた、膨大な数の経験(試食w)を基に品質を見極めれる。

因みに肉の品質を見極める時に脂肪の品質も同じく吟味するが、この作業を機械で

出来ないかという事を実際の現場で行っていて、モノ不飽和脂肪酸の含有量を

非破壊で検査できる環境が整えられていて、兵庫県内の競り市で表示されている。

 ここでモノ不飽和脂肪酸の含有量が高い牛肉が、高い相場を付けているかというと

微妙だ。モノ不飽和脂肪酸の含有量が高すぎる牛肉は、味の複雑さが無く単調で

ただ溶けて終わる。また締まりがなく、熟成中の良い変化も見られず、加工特性

の観点からも、美味しさの観点からも重用されていない。

 脂肪酸組成のバランスに関しては各企業でマストとしている値に違いはあろうが、

私の考えるバランスは58%から63%辺りが経験上、良い品質の脂といえる。これ以上

では先ほど申し上げた通り、以下は固くて不味い場合が圧倒的に多くなる。

 では、具体的にどのような脂肪酸組成のバランスが良いのだろうか。

 次回辺りに、実際に研究で取り扱った資料を基に更に深堀したいと思う。

 ひとまず、脂肪に関しては世の中に出回っている情報が多すぎるのと、

旧態依然とした情報が人々の中、社会に多く残っていて、正しい情報を

私たちが発信し伝えていかなければいけないと感じている。

=次回に続く=

 

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です