肉職人の使う包丁について最近、気が付いた事。

 至極、当たり前の事なんだが、

 使う職人の性格、人間性が使う道具、つまり包丁に

色濃く出る、という事。

 ん?そんな当たり前の事、何を言うてんねん・・・

 って思われるかもしれないが、敢えて書く。

 道具は、人を写す鏡のようなモノだ。

 今回、お伝えしたい事は、

【包丁の性質、性格】は使い手そのもの、という事。

 例えば私は、肉を切る包丁を4本使い分けている。

多すぎやろ!

とツッコみたくなる方が居るかもしれないが、まあ聞いて欲しい。

 なぜこんなに多いのかと言うと、肉の性質によって使い分けている

からだ。因みに、これは肉磨き用の包丁の場合。

 肉を磨く際に、スジを取る作業をするわけだが、このスジのつき方が

同じ部位の、同じ場所でも牛によって全く違う。

 最も美しく磨くには、それぞれに適した角度や材質、長さがあると

考えている故、この本数となっている。

 また、美しい仕事を心掛けるのは勿論だが、現場の状況に合わせ

作業強度を上げなければいけない場合もある。その時は、最も効率良く

肉を磨ける包丁を選択する。包丁の種類によって、結果は相当変わる。

使い分け

 使い分けている包丁の、決定的な違いは刃付けの角度。

 因みに角度のつけ方の種類はいわゆる直刃。断面が、V字形状

の刃付け。但し、肉用の包丁は片刃なので、正確にはVではないのだが、

活字で分かりやすくお伝えする為、敢えてV字としておく。

直刃とは、ナイフの世界なんかではスカンジグラインドという風に

呼ばれていたりする、素直な刃付けの種類。

 この刃付けの使い分けに関してだが、私は3種類の角度を使い分けている。

その種類とは 20度、30度、40度の3種類。(角度はあくまで体感)

これで3本。

 最後の1本は、30度の刃付けに更に小刃と呼ばれる、小さな角度を付けたもの。

英語だとベベルと呼ぶそうだが、これを合わせて4本を使い分けている。

 角度に関しては、それぞれ切れ味と比例し、柔らかい部位のスジを磨く場合、

例えばヘレは角度の付いた包丁でスジを磨くと肉の表面が毛羽立ち、変色が進む。

また歩留まりも落ちる。何より見た目が悪い。よって20度の包丁を選択し、これで

作業する。

 但し、この20度という角度の包丁は取り扱いがピーキーで、直ぐにスジが切れたり破

れたり。また少し油断しただけで肉がスジに付いてしまう。

一撃必殺の剃刀みたいなイメージ。

 次に、40度という角度の付いた包丁は、太い筋や逆引き(刃を裏返し逆方向からスジを磨く技法)

の最初における、道筋を造ったりするのに役立つ。欠点は刃の角度が仇となり、

スジを磨く時に肉を抉るように刃先の後が肉の表面に付いてしまう。

 これは刃先の付け方である程度は防ぐことが出来るが、角度に関しては

どうする事も出来ない。この辺りのジレンマを、1本で解決してくれるのが

角度30度の包丁。20度、40度の角度を持つ包丁の優れた点には勝つことは出来ないが、

そこは技術でかなりの部分を解決できる。よって、この角度がメインに使う包丁となる。

 このように包丁の角度によって、様々な部位に対する適切なアプローチを現在の私は

取り入れて仕事をしている。

 

しかし、今度は直刃の欠点、刃欠けに弱いという事が気になってくる。

これは材質に依る部分が大きいのだが、クラフトナイフのように様々な鋼材

をチョイス出来る状態に、肉包丁は無い。炭素鋼か、ステンレスかのほぼ2択

となる。

(注1 毎日大量に肉を処理する必要がある為、値段が廉価なものに限って)

(注2 職人が仕上げる1本ものの包丁であれば鋼材の幅は広がる)

 趣味のアウトドアでは、殆どの刃物はステンレスを選択している私だが、

お手頃価格で手に入るステンレス製の包丁で気に入った鋼材が無いため、

炭素鋼の包丁を使っている。この炭素鋼がめちゃくちゃ刃こぼれする。

 その為に、直刃の欠点をカバーする為に考えたのが、小刃を付ける仕様。

 小刃とは、V字の先端に再度V字の角度を付ける刃付けの事。切れ味はその分、

僅かに落ちるが刃が欠ける確率が減り、切れ味の持続性が良い。

ピーキーな角度の刃は、僅かな衝撃やまして、地面に落とそうものなら

確実に刃が欠け、研ぎ直さなければ使い物にならない。仕事の強度が求められている

際に、包丁が止まる事は死活問題であり、それは帰宅できる時間に直結するのだ(笑)

 因みに当社で小刃を付けている職人は私しか居ない。

 このように、包丁の使用は各職人により異なるもので、その運用方法は各個人の

仕事に対する向き合い方や、好みによって変化する。ついでに理想的な鋼材まで

選べたら最高なんですが~

 そんな感じで、自分の包丁と、他人の包丁を見比べている内に、

「道具って、そのまま人を表すよなぁ」

と思うようになった、という回の記事です。

 ステンレス鋼材の包丁、製造メーカーに確認していないので、これは

私の勝手な想像だが、恐らくSUS303系のステンレスが使われている。

この鋼材は刃の硬度ゆえか、肉に対する切れ味が不足している様に感じる。

これは私個人的な意見では無く、実際の現場の声でもある。

 400系の高炭素タイプ(404C)ぐらいじゃないと、恐らく肉職人が満足出来る

レベルの切れ味には至らないのではないかと思っている。それこそ、VG10とか、

粉末治金鋼レベルになれば、最高に良いのだろうが包丁1本あたりの単価がとんでも

無い事になるような・・・((((;゚Д゚)))) それで言えば、炭素鋼も高級料亭や星付き

レストランの和食職人が使ってるような青紙レベルも有りかも。

 因みに、私は運よく手に入れた試作品の白紙鋼の筋引きを1本持っているが、半端なく

切れるが半端なく研ぐのが大変。今の硬いけど、粘りが無い炭素鋼で良いのかも

知れない。

~終~

切っ先の形状と小刃

腹から根元

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