先日からサプリメントの健康被害が世間を騒がせている。

 健康になろうと接種したモノで、健康を害するとは、恐ろしい。

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 紅麹は伝統的に中国南部や、台湾や沖縄といった比較的温度の高い場所

で発酵食品の製造に使われてきた歴史がある。日本ではなじみが薄く、今回の

件を受け新たに利用しだしたイメージを持つ人がいるかも知れないが、

永く利用されてきた歴史のある麹で、これまでに他の食品に比べて特段、重篤な

問題を起こしている訳でもない。

 また、どんな食品も摂取しすぎると

過ぎたるは猶及ばざるが如し

となる。

 例えばこの製品で注目を集めている効能、血中コレステロール値

を下げる効果について言えば、一定値よりも高い方が効果を求めて飲むべき

であり、更に言えば中性脂肪とダブルで注意が必要というような検査結果で、

初めて飲用すると良い方向に効果が現れると思われる。

 悪玉コレステロールと呼ばれてしまっているが故の誤認として、

LDLコレステロールが身体中に存在している理由と、その効果効能を知らない方が

多すぎる様に見受ける。悪い効果を及ぼすのは一定の基準を超えた場合であり、

低い値は免疫機能の低下を引きおこしたり、細胞の正常なターンオーバー

を促せなくなったりするなど、生理的に重要な機能を担っているのだ。

 またEUなどでは、歴史的に紅麹を利用してこなかった経緯や、一部の菌株が

生成する毒素を懸念して、食品や添加物として認可していない国も多い。

或いは、飲用する場合は必ず医師の診断からの処方箋を必要とする国もある。

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 今後は、こういったお手軽サプリメントの類は、避けるべきかもしれない。

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食品と毒素

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 小林製薬は自社で製造した紅麹から、プベルル酸という想定外の物質が

検出されたと発表していた。製造過程で、想定外の代謝物を生成するように

なってしまった菌株が原因なのか、それとも外部の別の原因なのか、私が思う

最も高い確率は、紅麴以外のカビが培養タンク内で繁殖して、コントロール

出来ていない想定外の事態が起こったのではないだろうか。

 プベルル酸はカビ毒と呼ばれる、マイコトキシンの一種で言わばペニシリン

のような物質だ。マウス実験では、高い毒性を示した結果があるようで、恐らく

人体に多大な影響を及ぼすと考えられる。ただ、現在被害が出ている腎臓への

作用についてはまだよく理解が進んでいない模様だ。

 しかしながら肝臓への毒性については一定の知見が得られており、今回の事故

をきっかけに生理機能についての解明が進むだろう。

 健康被害に遭われた方の無念さ、残念ながらお亡くなりになられてしまった方へ

心からお悔やみ申し上げます。

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 こうなると、カビを利用する発酵食品そのものへの懸念も広まりそうだが、

食品とは何も全く全てが安全な物ばかりとは言えない。実は、水にだって

致死量はあるし、砂糖や塩のようなものにも致死量は存在する。

 スパイスなんかも結構危ない物がある。例えば挽肉料理の定番スパイス、

ナツメグは死亡例があるほどだし、どんなものも過ぎたるは猶及ばざるが如し。

 さて、ここまで今般社会を騒がせている健康被害について書いてきたが、

私どもが扱う牛肉などの畜肉も、これまでに幾多の健康被害を出してきた。

記憶に新しいのは、焼肉店でのレバー生食に起因する食中毒がある。

 これはレバーに付着していた、腸管出血性大腸菌O-157による食中毒

で、この菌は牛などの反芻動物の腸管内に存在している。腸から内臓の処理

中に肉に移り、食中毒を引き起こすのであるが、あの時はレバーだった。

 屠畜の際に内臓の処理は相当厳格に行われていて、腸管内の堆積物が肉に

付着する事はほとんどない。そもそも、頻繁にあればとっくの昔にレバーの

生食は禁止になっているはずだ。

 しかし同じ内臓のレバーには、僅かながら付着する可能性もあるし、肉に

関しても絶対とは言えない。ただ、私の様な立場の人間は、牛肉を毎日と言って

いいほど生食しているはずだから、その可能性は限りなく低い。

 この生食に関して補足しておくと、これは品質を確かめる為であり嗜好性で

行っている訳では無い事をお断りしておく。

 さて、件の焼肉店、以前に食肉の業界紙でキッチンの内部を撮影した

写真を見た事がある。一言で表すなら、「これは食中毒起こすわ…」

と確信出来るほど汚いキッチンだった。

 内臓肉と焼肉が同じまな板で処理されていたり、何時間も出しっぱなし

の様子が伺える肉や洗浄されていない調理器具など、起きるのは時間の

問題だったと言える。ただ、残念な事にこの食中毒により、尊い人の命が

奪われたという事実がある。

 この事故をきっかけに、牛肉の生食におけるハードルがグンと上がり、

内臓肉に関しては如何なる場合でも生食不可となってしまった。

腸管出血性大腸菌の生成する、強烈な毒素の怖さを目の当たりにしてしまって

は、当然の結果と言えよう。

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 口に入れる行為は、人として生きていく上で避けて通る事は出来ない。

食品を扱う会社に勤める私にとっても、興味深い出来事だったのでブログに

取り上げてみた。

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余談

 今回の事故で、意外だったのが紅麹の国内製造。

 近年の食品原料等は、かなりの部分で海外を頼っており、国内では

最終製品を仕上げるだけ、という事も珍しくない。そういう意味では、

国内で発酵に関する製品開発や製造の体制が整えられていたのは良い

点だが、それを制御出来ずに甚大な被害を出している現状を鑑みると

技術の低下が垣間見える一件となってしまった。

 引き続きこの件に関しては、注視し続けて行こうと思う。

 

 

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