玄人好みの手ごたえ満載

 いきなりだが写真の部位は”ニノウデ”という部位だ。ほとんどの方が知らない部位だと思うが、前脚の一部にある。この部位が、たまらなく私は好きだ。複雑に筋が入り組んでいて、かつその方向が様々。あの手この手を駆使しなければ、美しく仕上げる事が出来ない手のかかる奴という感じだ。

 筋肉自体は非常に柔らかく、かつサシが乗っており味のある部位だが、如何せんスジまみれなのでその特性を活かし、製品化するには技術が必要となる。これが良い。非常に良い。職人の技術と経験で、付加価値を付け製品化する。こういった取り組みが差別化に繋がる。

 うらいでこの部位は、サイコロステーキとして使用している。このサイコロステーキはお陰様で超人気製品、毎日売り切れで有難い話。ニノウデは重量が余り無いので、仕事量の割りには生産量が上がらず、なかなかご要望に応えられていないのが現状だが、これからも技術と経験、工夫を凝らしお客様の欲しいに応えていきたいと思う。

技術解説

 さて、ニノウデの技術解説をまとめてみたいと思う。

 ニノウデを美しく磨くコツは、脂とスジの的確な分離と、スジを追いかける包丁の動きの繊細さだ。まず、ニノウデは全体に脂が巻き付いており、ニノウデ本体と脂の分離は特段難しい事は無いが、分離する際はスジを絶対に傷つけない的確さが求められる。

 脂と本体を分離して、全体が現れたら周りの筋から引いていく。引き始めは、最も面積の広い場所から行い、左側なら時計回りに磨いていく。段差や、スジの分離部分などは特に繊細にスジを追いかけて包丁の切っ先で開き磨く。切っ先で開く際に、元来の包丁の持つ刃の角度にもよるが、鋭角の状態を、進行方向側と、肉が剥離していく側の2方向に気を配らないと、柔らかい繊維質のニノウデが裂ける、削れるといった状態になるので、下図の写真の様にスジをピンと張り、左手でコントロールしながら包丁を入れよう。

 段差や分離を乗り越えたら、前脚側を上面に置き、最上部のスジを引く。その次は引いた面を一段切開する。この切開は、坂引きになるが、開く側の方が格段に小さい事で、ある程度スジが引ける者であれば難しくないはずだ。

 その後、さらにもう一段下の数ミリ窪んだ場所から切開していくが、ここの入り方がその後の仕上がりに直結するので、コントロールが最も必要とされる場面だ。この時、通常のスジ引き包丁8寸などでコントロールする事が難しければ、捌き包丁などの短い包丁を、鋭角に仕上げておいたものを使うのも良い。1度のストロークが減るので、作業効率は格段と落ちるが、細かい作業には向いている選択である。

 段差や窪みに対する、包丁を入れる深さはスジのある場所ギリギリまで。分離する時も同じで、自身が入刀しているスジの深さまでが正解だ。これ以上入れても、これ以下であっても美しく仕上がらないので注意が必要だ。深ければただの深メス、浅ければスジを中心に肉が裂ける。

 正確に切開できていれば、上記の写真の様になるはずだ。ここまでくれば、後の難関は写真左側にある塊肉をスジに沿って2分割する場面を残すのみ。但し、この時の肉は塊と言えども、重量が※100g程度しか無い状態なので、アプローチとコントロールは、通常より軽めに行う。

(※重量については、扱う牛に準拠するが、あくまで当社の場合)

最後まで切開して開いたら、上記の様になる。ここで一番大きなスジを写真右側から順手で引いていく。途中、窪みとスジの分離があるが表面側と同じ意識で進めば良い結果が得られるはずだ。

 最後の分割は、包丁を入れる角度も筋引きに求められる、重要な要素だと感じる場面。軽い塊肉に対し、いつもの調子でスジを引けば、包丁から肉に伝わる力が過剰になってしまい、まな板の上で生きているかの如く、動く。

 これを防ぐためと、鋭い切れ味を出すための包丁の軌道は、対象に鋭角で入るという事。しかしながら鋭角で入るのは途中までで、最後は肉の厚みが無くなっていくので、いくら鋭角に入刀しようども、スジに大量の肉がついてしまう。そこで包丁を肉に今までよりも少しだけ押し付けながら、刃の角度を1~1.5度だけ上に向けて進んでやると、薄くなっていく肉と、スジに対する理想的な軌道を創る事が出来るのだ。

 と、自信満々に書いてみたが伝わる気がしない。。。(;^_^A

 このあたりはやはり動画に分がある、といったところか。写真をもっと撮っておけば良かったと後悔。今後、機を見て追加していきます!

 最後の写真が、全てのスジを引き終わった状態となる。ここまでの到達時間は3分ほど。細かい動作の連続と、特異な肉質に手を焼く部位だが、磨き切った満足度は高い。

 私も写真で見返してみれば、一部少し肉が残っていたり、裂けている部分も見受けれらるなどまだまだだった。今後も継続して、修練が必要だと実感出来たスジ引き解説だった。

ニノウデの中心部分のスジ

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