梅雨の山に宝がある
― 野生の梅10本から始まる、私の梅仕事

by 川村将紀 | 和牛うらい 店長の休日

2026年6月

店長の休日

山の野生の梅で梅仕事|収穫・梅酒・梅シロップの作り方【兵庫・猟師が実践】

兵庫の山で猟師として活動する和牛うらい店長が、

野生化した梅の木から毎年収穫して作る梅酒・梅シロップ・梅干しの仕込み方を詳しく解説。

市販品との味の違い収穫のタイミングの見極め方も紹介。

梅雨の時期だからこそ楽しめる、山の恵み、野生化した梅仕事の記録。

梅雨、という言葉の由来は、梅の実が熟す頃に降る雨だからだという。


それを知ってから、雨の山がとても好きになった。

猟期が終わり、山菜の時期も一段落すると、次の楽しみが待っている。

梅だ。私が猟に入る山の中に、野生化しているとおぼしき梅の木が10本ほど生えている。

誰が植えたのかはわからない。昔、この山の近くに人が暮らしていた証なのかもしれない。

毎年6月になると、その梅たちに会いに行く。

実が十分に膨らんでいるか、色づき具合はどうか。

その確認が、梅雨時期の山歩きの目的になっている。

野生の梅と出会う ― それは猟師ならではの景色

猟師として山に入っていなければ、あの梅の木には一生気づかなかったかもしれない。

師匠曰く、「目をつぶっていても解るぐらい、自分の山は知りつくせ。」

古びた林道を進み、獣道をたどり、人が滅多に入らない場所へ踏み込んでいくと、

突然そこに梅の木が現れる。春には白い花をひっそりと咲かせ、誰に見せるでもなく実を結ぶ。

その花は白く、可憐な小粒。一重の端正な美しさにうっとりする。

最初に気づいたのは、数年前の初夏。足元に転がる黄色い実。

辺り一面、漂う芳香。

「梅の匂いがする・・・」

拾い上げてみると、あの懐かしい甘酸っぱい香りがした。

見上げると、枝にちらほらと梅の実がぶら下がっていた。

それ以来、毎年通い続けている。

10本の木はそれぞれ少しずつ個性が違う。

実の大きさ、熟すタイミング、なり具合。

同じ山の中でも、日当たりや土壌で変わってくるのだろう。

そのひとつひとつに、自分なりの名前をつけたいくらいだ。

それから匂いを頼りに辺りを調べて見ると、500m四方の中に

10本ほど梅の木が生えている事が解った。

野生化した梅とは

かつて人家や農地の近くに植えられた梅の木が

、管理されなくなったまま自生し続けたもの。野梅とも呼ばれる。

品種改良された栽培梅とは違い、実は小ぶりなことが多いが、

酸味と香りが強く、梅仕事には非常に向いていると私は思っている。

「山梅」とも呼ばれ、調べて見ると地元の方に教わることで存在を知ることが多いそうだ。

栽培された梅と比べると、実は小さい。

でも香りが違う。

あの山の中に充満する、青くて強くて、少し野性的な梅の匂い。

それが毎年、私を山へ引き寄せる。

収穫のタイミング ― 実が語る準備完了のサイン

梅の収穫で最も大事なのは、タイミングだ。何をどう作りたいかによって、採るべき状態が変わってくる。

用途適した状態見分け方のポイント
梅酒・梅シロップ青梅(完熟前)全体的に緑、少し黄みがかり始めた頃。硬さが残っている。
梅干し完熟梅黄色〜橙色。甘い香りが強くなり、触るとやや柔らかい。
梅ジャム完熟〜過熟手前黄橙色で香り最高潮。落ちかけたものも可。

私の場合、最初の収穫は梅酒用の青梅狙いで行く。

まだ硬くて緑色が強い実を選んで摘む。

そのあと1〜2週間後にもう一度山に入り、今度は黄色く色づいた完熟梅を収穫して、

シロップや梅干しにする。二度に分けて通うのが、私の梅仕事のリズムだ。

近場にある利点を活かし、収穫のリズムも覚えた。

第一収穫(青梅)

6月上旬〜中旬
梅酒・梅シロップ用
硬くて緑の状態で

※場合によっては5月中旬に採れる時もある。

品種も関係するのだろう。

第二収穫(完熟梅)

6月中旬〜下旬
梅干し・梅ジャム用
黄色く甘い香りで

収穫量の目安(10本)

年によって差があるが
合計3〜15kgほど
不作の年もある

品種は恐らくバラバラで、小梅・中粒・表面がふさふさの中粒・南高梅もどきみたいな大粒

などバラエティーに富んでいる。

採取の心得

全部取らない


翌年の分を残す


落ち梅は自然に還す

不思議なことに、10本の木が全部同じタイミングで熟すわけではない。

日当たりの良い場所の木は早く、林の奥の木は1週間ほど遅れる。

だから確認に行く日が楽しみで仕方がない。毎年少しずつ違う。それが自然というものだ。

山の梅で作る梅シロップ ― 私のレシピ

梅酒も好きだが、梅シロップは特別だ。(因みに私はお酒にめっぽう弱い…)

アルコールがないぶん、梅の香りがダイレクトに出る。

炭酸で割ったものを、仕事終わりに自宅で一杯。

あの清涼感は、市販品では絶対に出ない。

野生化した梅のお陰だと私は勝手に信じ込んでいる。

◆ 山の青梅シロップ(基本レシピ)

材料の割合

青梅 1kg  氷砂糖 800g〜1kg

酢を少量(50ml程度)加えると発酵防止に有効。お好みで。

  1. 梅をよく洗い、水に2〜4時間漬けてアクを抜く(青梅は必須)。
  2. 水気をしっかり拭き取る。ここを怠るとカビの原因になる。
  3. 竹串やつまようじでヘタを取る。この作業が地味に楽しい。
  4. 竹串で梅全体に穴を開ける。エキスが出やすくなる。
  5. 消毒した瓶に梅と氷砂糖を交互に入れる。
  6. 冷暗所に置き、毎日瓶を優しく揺する。砂糖が溶けるまで2〜3週間。
  7. 梅を取り出し、シロップを軽く加熱殺菌(70℃程度)。完成。

炭酸水で4〜5倍希釈が黄金比。

かき氷のシロップにも、ヨーグルトにかけても最高。冷蔵保存で半年以上持つ。

昨年、知り合いのパティシエに梅をお裾分けしたら、山椒入りの梅シロップを

お作りになっていた。これが最高に美味しかったので、私も真似てみようと思っている。

丁度収穫の時期も被っていて、組み合わせとして最高だった。

なお、青梅1:氷砂糖1:リンゴ酢1(全て同量)のレシピも抜群に美味い。

梅酒と梅干し ― それぞれの仕込み哲学

哲学なんて大層な事を書いてしまったが、梅酒はシンプルが最強だと思っている。

余計なものを入れない。梅、砂糖、ホワイトリカー。

それだけで、山の梅はちゃんと答えを出してくれる。

◆ 山の青梅で仕込む梅酒

青梅 1kg  氷砂糖 500〜600g  ホワイトリカー 1.8L

  1. シロップと同じく、梅のアク抜き・水気拭き・ヘタ取りを行う。
  2. 消毒した4L瓶に梅と氷砂糖を入れ、ホワイトリカーを注ぐ。
  3. 冷暗所で最低3ヶ月。半年〜1年置くとまろやかさが増す。
  4. 1年後に梅を取り出すと、梅の実はそのまま食べても美味しい。
  5. ※梅酒付けの梅はアルコールを多分に含むので、運転は出来ませんよ☆

このレシピは甘さ控えめ。加える糖分は他の物でも代用できる。

ただしあまりに糖分が少なかったり、アルコール分が低いと腐敗の可能性が出てくる

ので慎重に。なお、今年の梅酒はブランデーで仕込んでみた。

アルコール度数が高く、長期保存・長期熟成を目指した仕込みだ。

梅干しはすこし手間がかかる。

塩漬けして重しをして、梅雨明けに土用干し。

でもその工程の一つひとつが、なんとも楽しい。

梅を干しながら、あの山の景色が頭に浮かぶ。

あの木から採った実が、ここまで変化していくのか、と。

梅干しの基本工程(覚え書き)

①完熟梅1kgに対し、粗塩180〜200g(塩分18〜20%が基本)
②塩漬け10〜14日。重石をして梅酢が上がるのを待つ
③赤紫蘇を加える場合は、梅酢が上がったタイミングで
④梅雨明け後、晴天3日間の土用干し
⑤干し上がったら瓶に戻し、梅酢を少し回しかけて保存
⑥最低3ヶ月、できれば1年以上熟成させると別物の旨さになる

梅 雨

つゆ / ばいう

梅雨の語源は「梅の実が熟す頃に降る雨」という説が有力だ。
中国から伝わった言葉とも言われているが、
いずれにせよ、梅と雨が結びついた季節の名前——
雨を嫌うより、その恵みを受け取る側でいたい。

山に入るたびに、そう思う。

市販品との決定的な違い ― 野生梅の価値

スーパーで売っている南高梅は美しい。

大粒で、皮が薄くて、形が揃っている。

品質が安定しているのは、長年の品種改良と農家の努力の結晶だ。

それは本当にすごいことだと思う。

でも、私の山の梅は違う価値を持っている。

大きさがバラバラで、傷もある。でも香りが違う。

酸味が鋭くて、後味に複雑さがある。

たぶん、誰も手を入れていないぶん、梅自身が環境に応じて、

作り上げた成分が凝縮されているのだと思う。

それに、何より「自分が採った」という事実が味に加わる。

これは比べようがない付加価値だ。

🍶 野生梅が梅仕事に向いている理由

・皮が厚くエキスが出やすい?(梅酒・シロップ向き)
・酸味が強く香りが野性的(仕上がりが個性的になる)
・農薬・化学肥料不使用(確実に無農薬)
・収穫体験そのものが価値になる

梅雨が楽しみになる理由

多くの人が梅雨を嫌うだろう。

じめじめして、外に出る気にもなれない。

気持ちはわかる。私も山に行けない日が続くと、そわそわしてくる。

でも今は、梅雨が来ると「梅仕事の季節だ」と思えるようになった。

山の梅の実が熟す頃、雨の匂いと梅の香りが混ざり合う。

その景色を知っているから、雨音が心地よく聞こえる。

猟師になって、山菜を覚えて、そして梅仕事を始めた。

山に入り続けることで、季節の楽しみがどんどん増えていく。

これが趣味の醍醐味だと思う。

何かに深くはまると、別の何かへとつながっていく。

知識と経験が積み重なって、山がどんどん面白い場所になっていく。

来週、今年の梅シロップ用の梅が完熟する頃だ。

仕事から戻った晩方に、炭酸で割ってゴクゴク飲む。

それだけのことが、今から楽しみで仕方がない。

川村将紀(和牛うらい 店長)

兵庫・加古川で和牛を扱う肉職人。猟師として山に入るうちに山菜・梅仕事にもはまり込む。

毎年6月、山中の野生梅から梅酒・梅シロップ・梅干しを仕込む。

梅雨が来るとかなりはしゃぐ、珍しい?タイプ。

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