和牛を育てるには、大量の資源が必要になる。
主な資源とは餌で、大きく分けて2種類、牧草類と脂肪交雑を作る穀物
が必要となり、肉になるまで実に牧草類12t・穀物が1.5tもの量が必要と
なる。(※2年間肥育した場合の平均値)
その餌は殆どが輸入によって賄われており、牧草類は60%、穀物に至っては
10%程度の自給率しかない。つまり、和牛という遺伝資源は日本固有の資産
といえるが、それを生産する為の原料は殆どが外国産になっている。
一方、世界へ目を向けてみると、今現在でも何億人と言う人達が食料難で飢餓状態にある。
そういう人達にとって、トウモロコシや大麦などの穀類は貴重な食料。日本では1kgの牛肉
をつくるために20倍近い量のこういった穀物を与えている。
但し、この場合のトウモロコシや麦類などはあくまで飼料用であり、人間が食べるものが
そのまま牛に与えられている訳では無い事は留意する必要がある。
もちろん、その穀物飼料を作付けしてる畑で、人間が食べるものを生産すれば飢餓に対する
手立てにはなるだろうが、この場合に投入するエネルギーは飼料用とは比べ物にならない量
となるので、単純計算とはならないのだが。
また生育に適した気候風土や、土壌状態なども人用と飼料用で要求は異なるので、
ここも考慮しなければならない。
しかしながら牛は本来、人間の食料とはならない稲わらや牧草を食べて、立派に牛肉や
牛乳を生産する事が出来る動物。霜降一辺倒の日本の牛肉生産体系を、我々のようなお肉屋
さんは勿論、生産者も消費者も真剣に考え直し、向き合う必要があるよう私は感じる。
あの巨体を草を食すだけで牛が作り出す秘密は、取り込んだ餌を胃の中で発酵
させる事にある。焼肉屋さんで大人気のミノ(第1胃)がその役目を果たす。
この発酵は「ルーメン発酵」と呼ばれていて、詳しく知りたい興味のある方は
研究者の書いている論文などが膨大にあるので、読んでみると面白いだろう。
要は、通常栄養に出来そうにない、ただの草木をエネルギーに変えてしまう
とんでもない生体発電機みたいなものという事。まさに自然、進化の神秘。
私はお肉屋さんの職人なので、美味しい和牛はたくさん食べてもらいたい。
それが会社の売上になり、自身の給与に繋がる。
でも、たまにこういった事を考えてみたりもする。