肉を活かすも殺すも技次第。

 今から20年以上前に師匠に言われた言葉。

 私が師匠と慕う人は何人かいらっしゃるが、こと筋引き(肉磨き)

に関してはこの言葉を言った人と、うちの現社長の2人。

 同じ人間が出来るのに、出来ないのが悔しい!

 と、うらいの仕事が終わってから、筋引きを求めて焼き肉屋に顔を

出したり、捌き屋にいって仕事を貰い、外修行に励んでいた。

 なぜ外の仕事を取り入れたかと言うと、当時の私にはライバル的な

人間がいて、しかも同い年だったので、ライバルにも負けたくなかったし

なにより社長(当時店長)の凄腕を見せつけられ、同じ職場で同じ量を

していてはいつまで経っても超えられないと思ったからだ。

 当時のライバルはその後、飲食業を起こし現場仕事から離れて

しまったため私の目標は

”店長を超す!”

という事となった。

 私の筋引きの師匠は(捌きの師匠でもある)神戸の超有名なお肉屋さん

Mで番頭を勤めていたらしく、その名に恥じぬ凄腕だった。

捌きでも競技会で日本一を取るなど、その腕の良さは仲間内でも有名で、

当時の師匠は志方にある卸売業者の捌き業務を請け負う社長さんをしていた。

本職の捌きを勝つことは難しいが、肉屋の本懐である筋引きは何としてでも

本職の捌きを勝つことは難しいが、肉屋の本懐である筋引きは何としてでも

勝ちたい!ギャフンと言わせたい!と常日頃より思っていた。

 師匠から筋引きの腕を認められ、「全盛期の儂より上手いやないか!」

と言ってもらえるのはこれより10年以上経ってからとなるが、当時の記憶を

思い出しながら仕事していた今日は、ちょっと新しい事に挑戦してみよう

とトウガラシ(チャックテンダー)の新しい筋引きを試してみた。

トウガラシ(チャックテンダー)

 トウガラシとは、肩にある部位で肩甲骨の周りに沿う赤身の肉。

 一般的に流通している部分肉のなかでは、最も小さい部位の1つ。

 主な用途は焼肉用やローストビーフ用。昔はユッケなんかにも供していた。

このトウガラシは周りをスジと骨肌(骨と筋肉を接合している膜)が

取り巻き、更に真ん中辺りにスジが入っており肩関節付近のスジはかなり

太く、根元付近に向かうほど急に薄くなるという特殊なスジとなっている。

お店によってはこのスジを取り除かない場合や肩関節の太いスジだけを

抉り出すように除去する場合が良く見受けられるが、うらいではしっかり

除去するスペックとなっている。

  この2分割がなかなか難しく、ただ単にスジを除去するだけであれば

少し器用なアルバイトでも出来るレベルだが、この分割を美しく、ひたすら

美しく、更にブログで話題に上げて人様に向かい

「どう?上手いでしょ?」

なんて自慢気に書くには、単に分割するだけではお話しにならず、

スジに肉を殆ど付けず、かつ肉も割かずに分割するという高難度な

筋引きとなる。

 まず、トウガラシ自体を取り巻くスジに関しては、曲線の連続に

なるので肉を付けずにスジを引く事は難しいかもしれないが、これが

出来ない様では分割を神業的に極める事は出来ない。骨肌の処理も同様

となる。

 トウガラシの分割を始める位置に関しては、肩関節側から始める方

が美しく仕上がりやすい。筋引きの基本は、繊維に沿って太い方から

細い方に移動するのがセオリーな為だ。

 更に、包丁を入れる場所を指定する方が良い。

 内側、身体の中心側から外側に向かい、スジの太い場所を平行に進む。

ここまで出来たら、後はトウガラシのスジを逆引き(順手と逆)で肉と

スジの間を滑らせながら進んでいく。この時に包丁の切っ先で向こう側の

肉に傷を付けない様に、深度をコントロールしながら注意深く、かつ

素早く動かす。

 トウガラシの断面は、大げさに言えばスジの付き方は

への字

になっている。スジが途中で切れない様に、包丁の角度と切っ先を

コントロールしながら、平行に進みスジの終わりが見えてきたら繊維

を崩さない様に断ち切る。

 この手法により、

➊スジと肉の間にある、極めて薄い脂の層を肉側に残し変色対策。

➋中心にあるスジに対しても、肉を殆ど付けずに同じ手法を施す。

事が可能だと判明した。

 今までで最も良い仕上がりとなった。

 これ以上の磨きを出来るよ!って方は是非コメント下さい♪

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です