本記事は、タラの芽とコシアブラの旬・採り方・見分け方を、
兵庫県で猟師として活動する和牛うらい店長が詳しく解説。
天ぷらや3年連続で作り続ける醤油漬けレシピ、”金漆”という漢字の由来まで。
春の山菜採りをもっと楽しむための完全ガイド。
春の山に入ると、いよいよだな!ってワクワクする。
杉の匂いに混じって、あの独特の芳香がふわりと届く瞬間——
それが、コシアブラを見つけた合図だ。
山菜採りを始めたのは、猟師として山に入るようになってからのことだ。
獲物を追いかけるうちに、山のことが少しずつわかってくる。
どこに何が生えているか、季節ごとに山がどう変わるか。
気づけば山菜の面白さにもはまっていた。
今回は春の山菜の二大スターについて語ろうと思う。
タラの芽とコシアブラ。どちらもウコギ科の仲間で、
天ぷらにすれば最高の春の味覚だ。でも、採れる場所も性格も少しずつ違う。
その違いを知っておくと、山歩きがぐっと楽しくなる。
タラの芽 ― 王道にして最強の春の使者
タラの芽はわかりやすい。
幹にしっかりとトゲが生えているので、慣れれば遠目でも見つけられる。
日当たりの良い林の縁、伐採跡地、川沿いの斜面——
明るい場所がタラは大好きだ。
光の差し込む山の淵で、スッと立ち上がる木があれば、それがタラの木のはず。
最高のタラと出会うには、採るタイミングが大事。
芽が開ききる前の、ぷっくりと膨らんだ状態を狙う。
茶色い苞(ほう)に包まれて、頂点がわずかに緑に染まりかけた頃。
その一瞬を逃すと、あっという間に葉が開いて食感が変わってしまうのだ。
まあ、開いたタラの芽も、新芽状態であればそれなりに美味いが、
やはり最高の状態を狙っていきたい。
採取時期(兵庫・加古川周辺)
3月下旬〜4月中旬
標高で2〜3週間の幅あり
生育場所の特徴
日当たり良い林縁・斜面
伐採跡地・川沿いに多い
見分けのポイント
幹の鋭いトゲ
頂芽のみ採取(脇芽は残す)
おすすめの食べ方
天ぷら(塩で食べる)
味噌和え・炒め物
☆特にお勧めなのが、サッと湯掻いたタラの芽のベーコン巻き。めちゃくちゃ美味い。
採るときの鉄則は、頂芽だけをいただくこと。
一番上の芽を取ったら、その枝はそれ以上伸びられなくなる。
これで来年以降も採取しやすくなるというものだ。そして脇芽は必ず残す。
山菜採りは”取りすぎない”のが、長く楽しむための礼儀というものだ。
具体的に、どの程度の脇芽が残っていれば生育するのか、
詳細に調べた事はないがタラの木は、生育初期に立ち枯れしている
ものを良く目にする。これは私の行っている採取法であるが、
樹高が低い(人間の背たけ程度)内は、採取を3割程度に留めている。
⚠ 採取時の注意点
タラノキとよく似た「ハリギリ(センノキ)」がという木がある。ウコギ科でタラの木以上にトゲがあり、若芽も食べられますが、苦みが強い。完全な毒ではありませんが、食べ比べるとタラの芽の優しさがよくわかります。選別する事は、地元の先達に教わるのが一番の近道です。尚、私の知人で重度のアレルギー体質の方が、このハリギリを天ぷらで食した際に、軽いアレルギーが出ていた。唇の貼れ、手足に軽い湿疹程度だったが、注意した方が良いかも知れない。
恐らく、タラ>ハリギリ>ヤマウルシの順にアルカロイドが少ないのだろう。
コシアブラ ― 山菜の女王、その芳香に魅せられて
コシアブラを「山菜の女王」と呼ぶ人がいる。
なかなか大げさに聞こえるかもしれないが、食べてみると納得する。
あの独特の、どこか青くて深い香り。
少しクセがあるのに、後を引く美味さ。一度はまったら抜け出せない。
生息地については面白い傾向がある。
兵庫県内をあちこち歩き回ってきた実感として、
コシアブラが多いのは日本海側の山地だ。
ただ、暖かい場所でも意外と生えている。
加古川の山にもあるし、私の秘密の場所は社(やしろ)の山中にある。
もうひとつ面白いのが、タラとの関係だ。同じウコギ科なのに、
コシアブラがいる場所にはタラが少ない。
競合しているのか、好む環境が微妙に違うのか。
森の生え際を歩いていると、そんな植物たちの縄張り争いが
見えてくる気がして、楽しくなる。
ただ、傾向としてコシアブラはタラより、僅かに光が少ない場所に
生えている様な気がしている。完全に日当たりが良い場所、というより、
昼寝に適しているような、穏やかな日差しを好んでいる印象だ。
採取時期(兵庫周辺)
4月上旬〜5月上旬
標高・地域差で幅あり
生育場所の特徴
森の生え際・林道沿い
日本海側山地に多い
見分けのポイント
トゲなし・5枚の掌状複葉
若芽は白っぽい産毛
おすすめの食べ方
天ぷら・醤油漬け
パスタ・炊き込みごはん
☆これまで試した中で、最も美味しかったのがコシアブラのペペロンチーノ。
タラの芽 vs コシアブラ ― 比べてわかる個性
| 項目 | タラの芽 | コシアブラ |
| 科・属 | ウコギ科タラノキ属 | ウコギ科コシアブラ属 |
| 旬(加古川周辺) | 3月下旬〜4月中旬 | 4月上旬〜5月上旬 |
| トゲ | あり(鋭い) | なし |
| 香り・風味 | 控えめ・やさしい苦み | 強い芳香・独特のクセ |
| 認知度 | 高い(全国区) | やや低い(知る人ぞ知る) |
| 生育場所 | 日当たり良い明るい場所 | 森の生え際・林道沿い |
| おすすめ調理法 | 天ぷら・味噌和え | 天ぷら・醤油漬け |
3年連続で作り続ける、コシアブラの醤油漬け
これが私の春のルーティン。収穫期の4月になると、
芽の出かたを毎週確認しに山へ行く。そして、採れたらすぐに
この醤油漬けを仕込む。もう3年続けていて、
毎年「今年も作ってよかった」と思う一品だ。
◆ コシアブラの醤油漬け(基本レシピ)
調味液の黄金比率
醤油 3味醂 1日本酒 1
+ ニンニク1かけ・鷹の爪1本
- 味醂と日本酒を先に小鍋で煮切る(アルコールを飛ばす)。火を止める。
- 醤油・薄切りにしたニンニク・鷹の爪を加えて調味液を作る。
- コシアブラをさっと湯がく(30秒〜1分程度。緑鮮やかになったら引き上げる)。
- すぐに冷水へ。しっかり冷めたら水気をよく切る。
- 保存容器に入れ、調味液をひたひたに注ぐ。
- 冷蔵庫で一晩おけば完成。翌日には食べられる。
ごはんのおかずに最高。豆腐にのせても、冷や奴の薬味にしても合う。
日持ちは冷蔵で1週間が目安。
天ぷらはもちろん絶品だが、この醤油漬けは
「山の香りをそのまま閉じ込める」感じがあって、
また別の美味さがある。翌朝、炊きたてのご飯の上に乗せて食べる——
それだけで、山まで行った甲斐があると思える逸品だ。
金 漆
こしあぶら
コシアブラの漢字表記は「金漆」。
かつてその樹液が金属の錆止めとして使われていたとされ、
現代ではその製法が失われてしまった幻の技術だ。
失われた知識には、なぜかワクワクする。
今年こそは、と意気込んでいたがコシアブラの樹液は、
なんと冬にしか出ないそうだ(!)ウルシと真逆で、かつごく少量しか取れないらしい。
なお、同じく山菜として楽しむ事が出来る「トウガラシ」
(コシアブラは五葉、トウガラシは三葉)も同じく樹液に防錆効果があるらしい。
山菜採りを長く楽しむために
猟師として山に入り続けてわかったことがある。
それは、山を”活かす”事を知っている人間を許す場所だ、ということ。
採りすぎない、荒らさない、感謝して持ち帰る。
それを守れば、山は毎年また同じ場所で、貴方を愉しまさせてくれるはずだ。
先日、再度山(六甲山系、ふたたびさん)へ赴いた時の事。
コシアブラが採りつくされていた。
この木は恐らく、来年を迎える事が出来ないであろう。
同じ山を嗜む者として、悲しい気持ちになった。
この記事を読んだ貴方は、ぜひ山を活かしながら楽しんで頂きたいと思う。
山菜採りを楽しむには
これから山菜採りを始めたいという人には、
まず地元の詳しい人に教えてもらうことを強くお勧めする。
図鑑も大事だが、実際に現地で「これだ」と指さしてもらう
経験にかなうものはない。コシアブラとウルシを間違えたら、
大変なことになる(ウルシはかぶれる)。安全第一で楽しみたい。
※ウルシの成分である、ウルシオールでアナフィラキシーショックを起こす可能性が指摘されており、皮膚に着けば即時型の炎症を引き起こすのだが、これがのどや食道などの粘膜に着けば、より重篤な反応が出るものと思われる。
🌿 山菜採りの基本ルール(私的まとめ)
① 必ず地元の人や図鑑で確認してから採取する
② 頂芽は採っても脇芽・根は残す
③ 一か所で取り切らず、少しずつ分散して採る
④ 国立・国定公園内は採取禁止の場合がある
⑤ 土地所有者の許可が必要な場合は必ず確認を
趣味はいい。日常から切り離してくれる時間がある。
山を歩き、季節を感じ、自分の手で収穫して食卓に並べる。
その一連の流れの中に、何か大事なものが詰まっている気がする。
和牛を扱う仕事をしながら、山菜にもはまっているのは矛盾しているようで、
実はつながっているのではないか。
私は、食べることの根っこにある、喜びを追いかけているのだと思う。
今年もあの山に行く。芽の出かたを確認して、
良いタイミングで収穫して、醤油漬けを仕込む。
それだけのことが、なんとも楽しみで仕方がない。
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川村将紀(和牛うらい 店長)小売店日本で唯一の牛部分肉製造ミートマイスター
兵庫・加古川で和牛を扱う肉職人。
休日は猟師として山に入り、山菜・ジビエ・失われた技術の探求に情熱を注ぐ。
コシアブラ醤油漬け歴3年。金漆の錆止め復元を画策中。

