美しいピンク色

 織りなす微細な霜降り。

 和牛うらいのローストビーフ、ポイントは肉質の目利き。

 肉の加工品で、最も大切なのは

原料肉の品質。熟練の職人が目利きした原料肉は、そのまま食べて

美味しい事は勿論、加工した際に「どう変化するか」を知り尽くした

肉職人だから出せる味わい。

 ともすれば、加工品は色々と足してどんな風にも作れてしまう

のが現代の食品工学。でもそんな作り方は、和牛専門店では行わない。

最も差別化できる部分を、添加物の力を借りてスルーしてしまえば、

魂の籠っていない商品でこの列強犇めく中で戦うかのようだ。

 信念の籠っていない製品サービスで、儲けさせてもらえるほど世の中は

甘くない。

製法

 素材で勝負する、ローストビーフで製法で特筆する物は無く

この項は閉じようと思ったのだが、1点だけあった。

 それは、世間一般の加熱順と逆の火入れをしている点。

通常だと、

表面を焼き固めてから中心部分が○○℃になるまで加熱する

という作り方が一般的だと思うが、和牛うらいでは

中心部分の温度が○○になるまで加熱し、その後に表面を焼く

という製法をとる。

 これにはきちんとした理由があり、まず

➊表面を焼いても固まる事は無い

という事実を述べておこう。

!!??

 と思う方が多いかも知れないが、これは科学に基づいた

れっきとした事実だ。残念ながら、表面を焼いてもよく言われている

旨味を閉じ込めるバリア

の役目は果たさない。

 論より証拠、表面を焼く工程が前となるか、後となるかで

焼き上がりの重量を比較すると、うらいでは5%程度歩留まりが違う。

後で焼いた方が歩留まりが良い。

 つまり、表面を先に焼いても旨味を閉じ込める効果はない訳だ。

但し、この方法も利点があってそれは

余分な水分を抜く

という工程と取る事も出来る点だ。

 肉中の細胞には、大きく分けて自由水と結合水という2種類の

状態で水分が保水されており、新鮮な状態(屠畜直後)を100%とすると

直後から徐々に保水性が低下していき、2週間後に基の状態に戻っていくという

線グラフで示すと蟻地獄の様なグラフとなる。

 で、しんせんだった肉から、保水性が徐々に失われていき出てくる

水分がいわゆるドリップだ。このドリップの正体は自由水で、肉の加工をする際に

この肉の保水能力がどうなっているのか、を考えて行う必要があると私は考えている。

そう言った理由から豚肉の場合は、出来る限り鮮度の高い内に仕込むのがセオリー

なんだが牛肉の場合はこの事を踏まえて加工している事業者は少ないように思う。

 話がだいぶ逸れてしまったので元に戻すと、自由水を抜く事で肉本来の風味が際立ち、

美味しい加工品となる訳だが、先ほど説明していた先に表面を焼き固める製法は、これ

を以って理に適っている、という訳だ。

 うらいでは、肉の保水能力が戻っていない肉をローストビーフに供する事は無い

ので、後に焼く製法を採用している訳だ。

 もっと細かく説明すると、原材料の水分量は製品時に適切な状態となる様に

しっかりコントロールしている。出来る限り自由水を抜いて、結合水を残し

ジューシーなローストビーフへ仕上がる為の下処理をしているという事だ。

 

原料について

 先ほどの項でも述べているが、ここでは別途、基本的な情報を示しておく。

 まず、うらいのローストビーフは店頭で販売している製品と同規格という点。

黒毛和牛の雌牛で、月齢30か月以上。枝肉重量は450kg以下の物を中心に

取り揃え、未経産。更に、肉質や脂質を担当者(私)がしっかり見極めて

仕入れを行っている。

調味料について

 調味料については、特段に変わったものは無い。

 品質の良い塩と、ブラックペッパーはGABANブランドの粗挽き、

後はトレハロースぐらいだ。トレハロースは保存料的な感覚でごく少量使用して

いたのだが、近年の法改正により本来の性質である砂糖とは取られず、添加物

扱いとなってしまったために現在では製品ラベルにもその旨を表記している。

 トレハロースとは自然界の動植物及び微生物中に存在している糖類である。

また無脊椎動物、特に昆虫が体内で利用しているのもこのトレハロースだ。

キノコなどにも含まれていて、多くの生理作用が認められる、優れた糖類

でもある。

 うらいではこれらトレハロースの持つ優れた作用を活用して加工品に使用して

いるが、中でも特筆すべきは上品な甘みと、焦げにくい性質だ。

 甘みは砂糖と比べておよそ6割強程度で、他の低カロリー糖類に比べ抜群の味覚を

示す。人体内で生合成は出来ないが、腸で吸収されるためカロリーは同じなので

同程度の甘さをトレハロースで求めると高カロリーとなる。

 後から焼く製法を採用しているうらいでは、キャラメル化が起きにくい砂糖

を使う事は割と役立っている。表面のキャラメル化は加工技術として知られているが、

起きにくい事も食品工学では重要となる。ただし、起きにくいだけで著しい高温に

晒されれば焦げが発生する。

 うらいのローストビーフの説明は、ざっとこんな感じだ。

 他に、焼成する温度や中心の芯温なんかももちろん工夫があるが、

それはまた次の機会に書き表す事とする。

 

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