当たり前だが冬は寒い。そんな寒い冬を、肉屋の職人目線で見てみると
冬は大好き。有難いと業界に身を置くものなら総じて感じているはずだ。
なぜこうも断言できるのかというと、肉を扱う上で室温を気にしない
奴は居ないと思われるからだ。
温度の高い場所での作業は、百害あって一利なし。よって冬は、肉職人に
とって最高の季節なのだ。私なんかは出来れば冷蔵庫内で作業したいと思って
いるぐらいだ。ただ、そこまでの低温になると体がもたないので、厳格に管理
されている大手メーカーの工場などでも、作業場内の室温は10度前後に保たれて
いる場合がほとんどだ。
こういった作業場は構造的には冷蔵庫と同じで、熱断熱性が高くかつ、手入れしやすい
素材で部屋そのものが覆われている。
一方私たちの様なお肉屋さんは、そこまでの設備投資は掛けられず、よって
室温が低く、かつ急激な温度上昇のない今の季節が最も良いと考える訳だ。
では、夏場はどうしているのかというと勿論空調で管理している。
しかし、莫大なエネルギーが必要になり、かつ建材自体の断熱性も一般的な
住宅と変わりがない訳で、お肉の品質を保つために電力会社に貢献しまくる
というのが常となっている。
肉の保管は低温で、というのは常識だがそのお肉に対する何かしらの
作業に関しても低温が良い。温度の上昇は肉に対しほとんどの場合、悪影響
を与える場合が多いからだ。安心安全の基本、衛生的に処理するのは勿論の
事だが、私が考える最大の理由は、”昇温による肉質の変化”。
簡単に説明すると、肉の中に含まれるたんぱく質の変性が肉の保管や
熟成に対しマイナスに働く、というもの。一度昇温した肉は昇温していない状態に
戻る事は無い。つまり、不可逆的な変化となるので出来る限り低温の環境で
保存なり、作業なりをする事が重要になる訳だ。
そして何より、低温下で作業した方が肉は美しい。職人たるや美しい仕事は
心がけるべきで温度が上がり、ダルダルになった肉に良い仕事は出来ないし、
そんな管理しか出来無い奴に美しい仕事は出来ないだろう。
そういう訳で、肉屋の職人は冬が好きなはずで、それはエネルギーを
使わずに、高い電気代を払わずに思い通りに肉がコントロール出来るから、
という事である。