第5話: 最終リハーサル?的なもの。
2024年9月某日
フェスティバルまであとわずか。
今日は肉ケーキのリハーサル?を頭の中で行ってみた。
莫大な予算が投入されているこの企画。
練習を行う事が出来ない、1発勝負。
食品であることから、賞味期限が存在し前もって作る、準備する事が出来ない
というジレンマ。練習しようにも、スケールの全く違うケーキを幾ら作ろうが
果たして本番に出来るのかいつまで経っても自信が得られない日々が続く。
正解の解らない難題を、成功に導くにはどう立ち向かえば良いのか。
今では、どうすれば出来るのか身をもって体験したので、自信を持って
作る事が出来るが、当時は気が気でなかった。自分達で設定したとは
いえ、新規カテゴリなのだ。正解は自分達で示すしかない。
そうこうする内に、9月17日。
この日は肉ケーキに使用する肉を捌き、磨く日だった。
本来の計画では、捌き(脱骨)は9月14日に行い、部分肉となって和牛うらいに届く手筈
だったのだが、事業者さんの都合により延期。祝祭日を挟むことから、17日に捌きと
予定通りの磨きを同日に行う事とした。
計画通りに進まない不安と、迫りくる本番との葛藤。
だが、やるしかない。
しかし、捌き当日ここでもアクシデントが続く。
捌きの担当は、私の師匠が代表を務める会社で、腕は日本一と言っても
過言ではない。事実、私も参加した競技会でぶっちぎりの成績で優勝した
正真正銘のツワモノだからだ。
ただ、午前中に親しい職人さんの葬儀が入ってしまい、開始時間が
大幅に遅れる事態に。挑戦会場と、事前の処理を行う作業場は同じ
なのだが、私は1度も使った事がなく勝手が判らない為に待つしかない。
時計を見ると、予定時間をもう1時間過ぎている。
「あー、今日は午前様かな。。。」
そう思っていた矢先、別の職人が帰ってきた。
「おお!助かった~。」
帰って来た職人は、師匠の一番弟子。
彼の帰還はもともと夕方と聞いていたのだが、
別の場所で行っていた輸出の仕事を、彼だけ一足先に切り上げて
帰ってきてくれたのだ。これも師匠の計らいだとの事。
何とか仕事の目途が立ってきた。
使い勝手が判らず、枝肉の分割がスタート出来ない状況だったので、
大分割が始まれば捌きは私でも出来る。
有志で肉磨きに来てくれた、和牛うらいの職人仲間が2人。
更に師匠も帰ってきて、作業はどんどん進む。
他社の人と、肉を通じて同じ目標に向かう。
協業は初めてでは無いが、今回は訳が違う。
大きな目標を、共に成し遂げる。
技術という共通言語で、肉に命を吹き込んでいく。
今思えば、恐らくこの時に初めてやれると確信したように
思う。職人が力を合わせれば、肉で出来ない事などないのだ。
「いよいよだな。」
私がこの数か月間感じていたこの緊張感は、準備を進め自信を付けてきた証だ。
かつてないほどに成功への期待が高まっている。
会場の雰囲気がどれほど盛り上がるかを予想すると、今から興奮が止まらない。