去る2025年4月、第三回ジャパニーズ和牛ワールドオークションが開催された。

 その前夜祭で3種類のステーキを試食してもらう企画があり、そのステーキ肉

調理のお仕事を通じて前夜祭に参加させて頂いた。

 そこで今回は、肉屋の職人が考える、理想のステーキについて述べたいと思う。

 ステーキは単純な様に見えて奥が深い。

 工程が少ない分、それぞれの工程での作業の善し悪しが出やすく、

そのため誤魔化しが効かない料理だ。

 和牛うらいでも、ステーキに供するお肉は必ず枝肉で選別したもの

しか使わないというルールを決めていて、肉屋の格がわかる素材であり

調理でもある。

 それではステーキの準備から順を追って紹介していく。

目利き

 スタートが肝心!!

 最も大切な素材選びは、目利きで行う。

 これまでに培ってきた、経験をフルに活かし見極める。

肉の色、サシの具合、脂や艶。全てが有益な情報源だ。

枝肉を使うのには理由があり、それは気に入った肉を

1頭丸ごと仕入れる事が出来る事。

 目で得た情報のみで後の品質を想像し、その想像が当初の

想像通り確実に進むまで、私は15年を要した。目利きは肉屋の

スタートであり、原点でもある。

 このスタートを理想通りに出来るかがその後の成果を左右する。

それぐらい、目利きは重要な要素なのだ。

 今回の素材選びは主催者側で終了していたので、私が関わる事は

無かったのだが3種類の中で1つ、私の感性にあう肉があった。

目利きに関しては、各企業さんにより正解とする答えが異なるのは

当然で、あくまでうらい式となるがその肉が写真のサーロインだ。

 目利きに関して私がここ最近、特に注目している要素は

”冷めても美味しい肉かどうか”である。

 さて、目利きにより理想の原料を得たら、次は熟成だ。

熟成に関する考え方

 熟成とは、という定義は各企業によって異なり、また

法律での定義がされていないので、成果を出している人の解釈

それぞれ全てが正解となる。

 今回紹介する内容は、こちらもあくまでうらい式であり、

これが全てでは無い事は事前にお断りしておく。

 うらいでは、熟成を枝肉で行う期間と、部分肉になってから行う

2つの期間でコントロールしている。枝肉では、出来る限り乾燥せずに

空気の流速が遅い冷蔵庫で行う事を理想としている。言ってみれば、

昔ながらの銅管に冷媒を通して冷やすタイプみたいな、自然循環式の

枝肉冷蔵庫が理想だ。そういった冷蔵庫は銅管周りに霜や氷が付着し、

霜取りによりそれらの水分が蒸散して、庫内が高湿度に保たれている。

急激な肉からの水分蒸発を防ぎ、しっとりとした肉に仕上がる。

 また空気の流速が少ないという事は、スミの入りが抑えられ、

歩留の向上が見込めるという利点がある。

 捌くタイミングも重要だ。

 屠畜したての牛肉は、死後硬直により筋肉が硬化していて

肉の能力が眠ったままの状態だ。死後硬直が解凍するまでに

必要な時間は牛でおよそ2週間であり、この時間を経て生前の

筋肉と同等の柔らかさとなる。また保水力もこの時が最大で、

以後時間の経過と共に柔らかさは緩やかに上昇していき、保水力は

緩やかに降下していく。

 捌きのタイミングは、屠畜後まもなく行うと、可食部となる

肉、つまり筋肉が硬い時に骨を無理矢理に取る事となり、

繊維が破壊されそれにより保水力の低下や、残しておきたい

ジューシーさが失われてしまう。

理想は2週間後に捌くのが良いのだが、

これは歩留まりの低下にも繋がるので見極めが難しい。

 時と場合に依るが、良い肉は酸化にも強く保水力も高いので

最低でも1週間は枝肉で熟成してから捌く様にしている。

 捌いた後は、直ぐに磨いてその後、真空包装する。

 それからまた2週間以上熟成させて、精肉に仕上げていくのが

うらい式。その熟成期間中に余分なドリップを処理し、

更に肉の良さを引き出すように加工している。

 今回の原料に関しては、部分肉で提供されたので捌きの工程や

屠畜後の死後硬直などは考慮していないが、前夜祭での提供から

逆算してドリップ処理に時間が取れるように納品日を指定させて

頂いた。

 このドリップの正体は、細胞内での副産物と自由水と呼ばれる

細胞外にある水分で、このドリップ処理の成果が、後に精肉の品質へと

繋がる事となる。また、調理時の加熱損失を優位に抑えるので、

調理時間の短縮や焼き色のコントロールが容易となり、それが結果美しい

料理に繋がるのである。

 次回は磨きの工程や、事前処理などを紹介します。

 

 

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