貴方は、知的資産経営という言葉をご存じだろうか。

私は、この言葉と出会ってから、10年が経った。

そして、今では私の仕事において、無くてはならない

存在となっている、この「知的資産経営」。

肉屋で働き、毎日、肉と向き合っている、私に必要な知的資産経営とは何か。

そして、「街の肉屋」という現在の活動ステージが、自分にとって誇りであり、

その本質を少しばかり見出した気がして、忘れない様に言語化しようと

思い立ったのが、本稿のきっかけ。

知的資産経営とは、日本における、独自の会社組織を言語化する

陰陽思想的な 何かではないかと。


白黒つけない東洋の知恵

知的資産経営とは、一般的に知られている会社の評価とは異なる。

端的に言い表せば、財務諸表や決算書に乗らない、見えない資産

の事を指している。

そして、この考え方は、現代における重要な会社組織の評価軸となっていて、

現代企業の約90%が、これで成り立っていると言われている。

1975年: 有形資産 83% / 無形資産 17%
2020年: 有形資産 10% / 無形資産 90%

(経済産業省 中小企業庁HPを参考)

このように、バランスシートに載らない価値こそが企業の競争力の源泉になっている現状がある。

そして、その動きは国際的だ。

国際的な動向

国・機関取り組み
IIRC(国際統合報告評議会)統合報告書フレームワーク(6つの資本概念)
EU非財務情報開示指令(CSRD)で無形資産の開示義務化
ISOISO 30401(知識管理)など関連規格
WIPO知的財産と無形資産の国際基準

IIRCの「6つの資本」概念(統合報告との接続)

📦 財務資本       → お金・資金

🏭 製造資本       → 設備・インフラ

🧑 人的資本       → 人材・スキル

💡 知的資本       → 特許・ノウハウ・ブランド

🤝 社会関係資本   → 関係性・信頼

🌍 自然資本       → 環境・資源

しかしながら、私はこの知的資産経営について学ぶ中で、少しばかり

疑問に思っていた事がある。

西洋的な経営論は、基本的に二項対立で動いている。

強みと弱み。内部と外部。現在と未来。大企業と中小企業。

そしてその二項対立の中で、中小企業は常に「弱者」の側に置かれます。

規模が小さい。資金力がない。人材が限られる。だから大企業に勝てない——という論理。

しかし陰陽思想を当てはめてみると、それは全く違う価値に気づく。

陰の中に陽があり、陽の中に陰がある。

小さいこと(陰)は、弱さではない。小さいからこそ生まれる強さ(陽)がある。

そしてその逆もまた真実のはずだ。

私がこの思想に経営の本質を見たのは、ある出来事がきっかけでだった。


「街の肉屋」が、国際市場で通用した日

ワールドオークションの現場に初めて立った時のことを、今でも鮮明に覚えている。

世界中のバイヤーが集まり、和牛・神戸ビーフを競り落とす舞台。

私に求められたのは、調理と実演。

「なぜ自分が呼ばれたのか」——正直、最初はわからなかった。

しかしながら、せっかく頂いたチャンス無駄には出来ない。

そして、現場に立った瞬間、理解した。私が30年間、枝肉と向き合い続けた経験

——産地、血統、月齢、肥育状態を一頭一頭見てきた「眼」——

それがもたらす価値、そこが国際市場では希少な判断基準になっていた。

街の肉屋(陰)の眼が、国際舞台(陽)の価値判断基準になる。

これが陰陽思想の体現だと、最近、気づいた。


「2%しか仕入れない」という制約が、強さになる

ここで、違う事例を見てみたい。

私たちうらいは、黒毛和牛の総生産量のうち、わずか2%弱の中から枝肉を

選んでいる。

月齢30ヶ月以上の雌牛、枝肉重量430kg以下——

肉質や脂質、その他もろもろあるが、最近の私が大事にしている

”冷めてもなお美味しい”

というこの独自基準を満たす牛だけを、一頭買いで仕入れます。

外から見れば、これはただの制約であり、傲慢かもしれない。

わずか2%しか扱えないという、足枷、ハンディキャップとも言えるだろう。

しかし陰陽の視点で見れば——

制約(陰)が、最高品質の実現(陽)を生む。

「なんでも仕入れられる」業者より、「2%しか仕入れない」業者の方が、

本物を求める顧客には圧倒的に信頼される。

この逆説が、私たちの競争力の源泉になっている。


知的資産経営との出会い

私が知的資産経営という概念に出会ったのは、

故・森下勉先生(ツトム経営研究所)を通じてでした。

知的資産経営とは、財務諸表に現れない「見えない強み」——

人の技術、組織のノウハウ、顧客との信頼関係——

を可視化し、経営の武器にする考え方。

そして私はここに、陰陽思想との深い接点を見出した。

(私個人が勝手に思い込んでいるだけではあるが(笑))

「見えないもの(陰)」が「見えるもの(陽)」を生み出す——

これは知的資産経営の本質と全く同じ構造ではないだろうか。

職人の30年の経験(陰・見えない)が、365日変わらない品質(陽・見える)を生む。

常連客との深い信頼(陰・見えない)が、農林水産大臣賞という評価(陽・見える)を生む。

神戸大学との地道な研究(陰・見えない)が、国際市場での信頼(陽・見える)を生む。


街の肉屋だからこそ、できること

知的資産経営の力を活かし、次のような取り組みも始めている。

肉のまちづくり推進協議会という活動を始めて、今年で4年目になる。

この肉のまちづくり推進協議会とは、地元・加古川を、食肉という

地場産業で元気にする事を目的とし、立ち上がった団体で、地元の

精肉店や卸売事業者、飲食店や政治家などが集まった、有志の会。

加古川河川敷を活用した、肉フェス

「ジャパンビーフフェスティバルin加古川」は2023年から

実行委員として関り、昨年度の関西大阪万博にも出店した。

この活動を通じて、地元の教育機関から食育事業を請け負うに至った。

ここで大事なポイントは、

依頼された、という点。

私たちが売り込んだのではなく。

これもまた、陰陽思想の体現だと思っている。

地域に根ざし続けること(陰・小さな活動)が、

社会から必要とされること(陽・プル型の価値創造)を生む。

「街の肉屋」という言葉は、私にとって最大の誇りであり、

生き方、人生そのものかも知れない。

なぜなら——街の肉屋だからこそ、地域を動かせる。

街の肉屋だからこそ、国際市場で信頼される。

街の肉屋だからこそ、次世代に食の文化を伝えられる。

小さいこと(陰)は、弱さではない。小さいことの中に、大きな可能性(陽)が宿っている。

西洋型の、二軸構造は日本企業にしっくりこないのではないだろうか。

陰陽思想は2500年前の哲学だが、2026年の現代にも、そのまま生きているのでは

ないだろうか。


日本唯一の小売事業者在籍の牛部分肉製造ミートマイスター 和牛うらい 

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