最近、熟成について色々と聞かれるし、思うところあってこのブログを書いている。
巷に溢れる真偽不明の情報や、流行り廃りも相まって、混沌としている熟成。
私なりに、これまで得た経験と知識で纏めてみる。
熟成とは?
そもそも熟成とは何か。
私が専門とする、牛肉について言えば熟成とは、”筋肉の経時変化”と言えよう。
生体である牛が、屠畜されたその瞬間から始まる一連の経時変化が熟成である。
可食部である筋肉が、時間の経過と共に様々な変化を起こす。
これについては、現在インターネット上で色々と情報が出回っていて、
筋肉云々の科学的な変化についてはそちらを参考にされたい。
本稿で扱いたいのは、まずは何を以って熟成と定義されるのか、についてである。
残念ながら、現在の日本の法律ではそういった定義は無く、つまり法的な根拠が
ないまま言葉が独り歩きしている状態なのだ。
つまり、熟成とはその言葉を扱う人の主観により定義されるという事だ。
その昔に私が見学に行った肉屋さんでは、
「うちは3日間熟成させてから販売してるねん。肉は鮮度が大事やから!」
そう言いながら、屠畜から2,3日しか経っていない枝肉を捌いていた。
これは、決してその価値観を下げている訳では無いが、死後硬直の解凍も
まだ始まったばかりのお肉を、鮮度が命と言いながら捌くという私が所属する
会社とは真逆の方法で扱う事に衝撃を受けた。因みに、そのお店は今も存続
されていて更に人気店だ。
こうやって、業界内でも2,3日は大げさかもしれないが定義は各々それぞれだ。
因みにうらいでは40日ぐらいが平均で、それよりうんと長く熟成させる部位もある
し、そうでない部位もある。売れるタイミングにもよるが。
先ほどの例と、うらいを比較しても熟成と言う言葉のもつ、中身の差はかなりの開きがある。
もちろん、あえて差が大きい例をあげたのは言うまでもないが、このように業界内での
ある一定の基準と言うものさえ、無い。
大げさに言えば、1秒でも1年でも熟成と言ってしまえば熟成という事だ。
扱う立場の主観で、熟成は使用され定義されているのが現状なので、
熟成だから、とか熟成したら、熟成○○とかは何の基準も無い状態で語られている。
しかしながら、翌々考えてみるとこの状態は、理に適っているかもしれない。
それぞれの立場で、自社の肉に価値を付け販売する。それが、一定以上の
評価を得れば商売になるし、いくら格調高く叫んでみても、受け入れられなければ
継続する事は出来ない。
要は、熟成の本物・偽物は問題の本質ではなく、それは消費者の判断に委ねられる
というごく自然な原理原則によって、自ずと価値は形成されていくという事である。
熟成の持つ危険性
ただ、気を付けなければならないのは、熟成と言うその言葉を扱う者の方で、
仮に何かしらの事故や事件が発生した場合、その責任は業界全体に波及しうる
という事を念頭にしなければならない。
記憶に新しいところで言えば、生食による食中毒により、ユッケやレバ刺しなどがおいそれと
食べれなくなった事だろう。
現状の法律では、枝肉に賞味期限の類はない。明らかな食品であるにも関わらず、そういった
類の制約(?)が無い事は非常に珍しいと思う。これが仮に、稚拙な方法や功名心に駆られた
事業者が危険な食中毒を発生させてしまい、その原因が熟成肉である、と判断されてしまえば
枝肉、骨付き肉の流通に重大な影響を及ぼしかねない。
例えば、骨付き肉に賞味期限が設定され、それが食中毒の危険がある熟成が出来ない、
20日などに法的に設定されてしまえば、従来行われていた枝枯らしによる熟成を行う
事業者は死活問題だろう。もちろん、うらいもその当事者となる。
第二のユッケ事件などごめんである。
熟成の種類
さて、熟成とは法的な根拠が無く、畜産関係者すらも良く解らないままで使われており、
その向かう先が間違えば業界に多大な影響を及ぼしかねない、という事はご理解頂けた
かと思う。
次は、熟成の方法について述べてみたい。
私の知る分類では、以下の通りだ。
- ドライエイジング
- ウェットエイジング
- 枝枯らし
- カビ付け
この4種類が現在、主に行われている方法だと思う。
それぞれの定義については、これまでにも熟成の識者が述べられているので、
ここでは詳しく述べないが、ドライエイジングと枝枯らしは似て異なるもの
と私は捉えており、ドライエイジングは風を積極的に活用するのに対し、
昔のお肉屋さんでは主流であった枝枯らしについては、そもそも風はある意味
悪と捉えている節があると私は思う。
風とは、気流の事で昔の枝肉を保管する冷蔵庫は自然対流による間接冷却
だったので、温度の差による気流しか生まれず、また冷蔵庫内は高湿度で
表面の水分はある程度保たれていた。
ドライエイジングでは、積極的に枝肉や骨付きの部分肉に冷気を当て、保管のごく
初期に表面水分を蒸散させる環境を理想としている。これは、ニューヨークなど
のステーキハウスで行われている方法で、現地のアンガス牛など、皮下脂肪が
ある程度あり、筋肉部分は赤身の多い特徴を持つ牛肉に適した方法だと私は
考えている。
実際、ドライエイジングと枝枯らしの異なる2つの方法で、自社の枝肉や
骨付きの部分肉を熟成させた場合、未経産牛の場合は枝枯らし、経産牛の
場合はドライエイジングとの相性が良かった。
まだまだ熟成について書きたい事は山ほどあるが、ページが取り留めもなく
長くなりそうなので、今回はここまで。次回、熟成について書く時は目利きなど
についても書いてみたい。

