前々回の稿で、私は熟成に対し、以下のようなスタンスを示した。

「熟成とは、法律的に定義されている訳では無い。」

「主張する、その人(組織)の主観であり、客観的な指針は無い。」

「但し、熟成を謳い、経済活動を行った結果、それは消費者、マーケットが自然淘汰する

ので、私個人的には”熟成とは、こうでなければならない”といった固定観念はない。」

(※但し、和牛うらいの考える、美味しいお肉をお届けする為の方法は確立している上で)

「しかしながら、食品を扱うには、安心安全が大前提であり、その範疇で行われるべきである。」

 こういった趣旨の内容だったかと思う。

現代の熟成は、様々な主張や方法が編み出され、日々更新されている。

数年前のような、活況は見受けられないが、これも流行り廃りがあるのだろう。

 さて、今回は熟成に関する、目利きについてお話ししようと思う。

熟成における目利きについて

 まず、熟成における目利きについて、私がどの様に定義しているのかを明確にしておきたい。

私が考える、熟成における目利きとは、ほぼイコールで賞味期限、つまり

”このお肉はどのぐらい日持ちするか(美味しくなるか)”

である。

 同じ日に屠畜され、同じ条件で保存した肉でも、ある肉は30日で

ピークを迎え、ある肉は50日を過ぎてもどんどん美味しくなるーーー

 そういった現象は、ごくごく普通に起きる。

どれだけ職人が手をかけてやろうとも、どれだけ細心の注意を払おうとも、

元々持っている力以上の美味しさは引き出せない。ダメなものは、ダメなのだ。

 これを見た目だけで判断し、自信を持って手当出来るまでに、相当の年数を要した。

要は、枝肉を見た時点で、そのお肉のピークについて想像が付いている、

と言い換える事が出来る。まあ、あくまで自社のやり方の中ではあるが。

 では、どういった要素が、その目利きの中で判断を分けるいるのか。

まず、最も大切にしている事は、お肉の”照り”と呼ばれる、彩度だ。

これは、どのような色をしているかという、色そのものというより、

ある意味、反射と言えば伝わりやすいであろうか。

肉そのものが放つ輝き、でもある。

 反射といったり、そのものが光っている、といったり

この2つは根源的な始まりが違うので、ちょっとオカルトの様に

聞こえるかもしれないが、美味しいお肉は輝いているのだ。

少なくとも、私の目にはそう見えている。まあ、お肉自体が

輝く事は、あり得ないので科学的には反射が正解だろう。

 私自身は、なぜこのような現象が起きて、かつその輝きが

お肉の賞味期限に関わっているのかを、定数的に説明できる

術を持ち合わせていない事が、もどかしいのではあるが、搔い摘んだ

知識を繋ぎ合わせ、一言で表すと、次のようになる。

【筋肉中のグリコーゲン含有量に拠るもの】

 グリコーゲンは、筋肉の燃料といえるもので、食肉とは、まさにその筋肉部分を

指していることから、その含有量が多い、少ないは食味に関係していると考えられている。

以下に、2019年に行われた、研究論文の一部を抜粋して記載している。

牛肉中のグルコースなどの単糖類は,呈味成分であるとともに,加熱調理時に生成する香気成分の前駆物質である.本研究では,黒毛和種の横隔膜,僧帽筋,腰最長筋の熟成時のグリコーゲンおよび単糖類含量の変化を調査した.その結果,熟成に従い単糖類含量は増加することが示唆され,屠畜直後の温屠体の横隔膜および腰最長筋のグリコーゲン含量と,2,3日熟成後の単糖類増加量は有意な正の相関を示した.同様に,冷屠体の僧帽筋および腰最長筋のグリコーゲン含量と,14日熟成後の単糖類増加量は有意な正の相関を示した.以上のことから,温屠体または冷屠体のグリコーゲン含量が多い牛肉では,熟成過程で単糖類が多く生成し,風味の良い牛肉となる可能性が示唆され,今後のさらなる調査と検証により,これらの筋肉中グリコーゲン含量を黒毛和種の新たな肉質の評価指標として用いることができる可能性が示唆された.

発行日: 2020/05/25 受付日: 2019/10/21 J-STAGE公開日: 2020/06/13 受理日: 2020/01/06 早期公開日: – 改訂日: –

 この研究内容を出来る限り簡単に説明すると、グリコーゲンが多い肉は美味しくなるよ、

という内容を表しているが、残念ながらグリコーゲンが多いお肉は日持ちするよ、とは

なっていなく、また明確にそれを示している研究論文は殆ど無い状態である。

 殆ど無いとは言いつつも、そういった内容が全国の研究機関で研究され始めており、

これはようやく、現場が持っている知識に科学が追い付いてきていることの表れだろう

と私自身は考えている。

 例えば、鳥取県では筋肉中のグリコーゲン含有量に関する、遺伝子情報を反映させた、

遺伝子別の評価を行っており、これを育種価として明記する事を近年進めている。

これは非常に先進的な取り組みであり、但馬牛を育てる兵庫県でも、ぜひ行って頂きたい内容だ。

 また、理化学的なメカニズムに沿って考えれば、一定の条件下では私の考える

グリコーゲン含有量の多い牛肉=賞味期限が長くなる牛肉という考察も成り立つ。

以下に、その一連の考えを述べてみる。


① グリコーゲンとpH低下

  • 屠畜後
    グリコーゲン → 乳酸(嫌気的解糖)
  • グリコーゲンが多い
    → 乳酸生成量が十分
    最終pHが適正に低下(約5.4〜5.6)

② pHと保存性の関係

  • 低pH
    • 微生物増殖が抑制される
    • 自己消化(腐敗的プロテアーゼ)の暴走を防ぐ
  • 高pH(DFD肉)
    • 細菌増殖が速い
    • 保水性が高く水分活性が高い
    • → 明確に日持ちが悪い

③ したがって

  • グリコーゲンが豊富
    → 適切なpH低下
    → 微生物学的に安定
    結果として賞味期限が延びる可能性

 以上は、さほど異論が出ないであろう内容かと思う。しかしながら、以下の

点には注意しなければならないかと思う。


但し

  • 「グリコーゲンが多い = 必ず日持ちが良い」ではない
  • 以下が揃って初めて成立
    • 衛生的な屠畜
    • 適切な冷却速度
    • 正常なpH低下曲線

➟ 川村の考える、職人の経験則とは「pHを見ている」のであり、その背後にグリコーゲンがある

に過ぎないという点だ。


 また、この評価もあくまで私の考えるベターを導き出す為のもので、川村が理想的と

評価する内容は、異なった他社ではベターとならないかもしれない。

 これまで、熟成に関わる目利きの技能についてお話しさせて頂いた。

異論、科学的に正しくない部分はあるかもしれないが、この内容は

私自身がこれまでの経験の中で得て、磨き、実証して来た結果でもある。

いわばこれは、時間情報、変化の予測を行っていると言えるかと思う。

本稿に対し、活発な意見を頂けたら幸いです。

 次回は、更に進んで色についてのお話しをしたいと思う。

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